12月12日のサイエンスカフェin静岡は 和田秀樹教授 (静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻)による「同位体のささやきから知る自然」です。
白髪白髯、見るからにタダモノとは思えない
静大理学部の名物教授、和田先生にようやくご登壇頂けることになりました
学生からは敬意と愛情を込めて
「ワダジィ」と呼ばれているそうですよ
「人は空気や食べ物なしには生きられない。そこには生き物のつながりがある。そのつながりをたどる細い糸、それが同位体なのです」とポスターに書かれています。今回のお話は、同位体を使って環境変化をいかにして知るか、ということのようですね。(同位体については、最後に解説を付けておきました。)
私たちの体を作り上げている主要な元素、炭素にもいくつかの同位体があります。一番多い同位体が炭素12で、地球上に98.9%、次が炭素13で1.1%だけ存在しています。この二つが安定同位体ですが、これらの他に年代測定に使われる放射性同位体、炭素14が極微量含まれています。
この同位体の比率は、環境に応じてほんのわずかですが変化します。逆にいえば、ある試料の同位体比率を調べることによって、その試料が出来た場所や時代の環境を知ることが出来るわけです。
和田先生は世界中の岩石(炭酸塩、炭素を含んだ鉱物)や植物などのサンプルを集め、その同位体比の研究を続けてこられました。来年3月に定年を迎えられますので、多年の研究の集大成を聞かせて頂けるものと私も期待しています。
グラフ:バオバブ樹幹のセルロースに含まれる炭素14C濃度の変化。1963年頃に何が起きたかは当日のお楽しみ?
最近のカフェは大入りになる場合が多く、入場制限をすることもしばしばです。
(折角来て頂いたのにお帰り頂いた方々には深くお詫び申し上げます。)
しかし、消防法の定めにより満席になってしまったら、入場をお断りせざるを得ません。
先着順で150名まで ですので、どうかご了承下さい。
満席になるのはほとんどの場合、開始時刻である18時前後です。ご都合のつく方はお早めにお越し下さい。開場は17時を予定しています。
(ご予約は受け付けておりません。また、遅れてくる方のための席取りもご遠慮頂いております。)
当日の混雑状況はツイッター にて17時半頃から実況します。遅れそうになったら、参考にして下さい。
ツイッターのアカウントは →
https://twitter.com/SciCafeShizuoka #SC静岡 というタグで検索すると出てきます!
(ツイッターと同時にブログでも混雑状況を実況していましたが、時間的に難しいのでツイッターのみに致します。)
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サイエンスカフェin静岡 第82話
2013年12月12日(木)
講師 和田秀樹教授(静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻)
演題 同位体のささやきから知る自然
☆会場:B-nest 静岡市産学交流センター(静岡市葵区御幸町3-21 ペガサートビル6階)
地図はこちら→
http://www.b-nest.jp/map.html
セノバの向かい側、御幸町図書館の入っているビルです。
☆時間:18時〜19時半(開場17時)
17時半ごろから数学科の先生監修による「数学パズル」もやってます!
☆入場無料(無料なのに、なんと茶菓子と飲み物付きですよ。)
☆
事前申込不要 直接会場へおいで下さい。
ただし、定員150名を越えた場合は安全上の問題があるため入場をお断りしています。
このため,余分な席取りはお断りしておりますのでご了承ください。
★参加対象 聴衆として高校生程度〜シニア層を想定していますが、最近は小中学生の参加者も増えてきました。「科学」と「科学者」に興味を持ってくれて,他のお客様の迷惑にならないように静かに聞いて下さるお子さんは「未来の科学者」として大歓迎です!
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「同位体」について
原発事故という大変に不幸な形で「放射性同位体」という言葉が一般的に知られるようになりましたが、同位体っていったい何でしょうか。
世界を形作っている原子は、プラスの電荷を持つ陽子と電荷を持たない中性子からなる原子核と、そのまわりを取り囲むマイナスの電荷を持つ電子によって出来上がっています。世界には100個以上の元素がありますが、元素の性質はその原子核の中の「陽子の数」によって変わります。この数を
原子番号といいます。水素の原子番号は1で、炭素は6、酸素は8というぐあいです。
陽子と電子の数が同数で、プラスマイナスで打ち消しあえば中性の原子が出来上がりますし、バランスが崩れると正や負の電荷を持ったイオンが出来上がります。このへんは高校生くらいなら知っていてほしいところですね
原子には重さがありますが、その重さは大まかには原子核にある陽子と中性子の数に比例します。中性子と陽子はだいたい同じ重さであり、電子は陽子や中性子に比べるととても軽いからです。そこで陽子と中性子の数の和で原子の重さを表し、これを
質量数とよびます。ところで、上で書いたように元素の性質は、原子核中の陽子の数(原子番号)によって決まりますから、原子核中の中性子の数が変わって質量数が違っても、元素としての性質はほとんど変わりません。このように、
同じ原子番号をもちながら質量数が違うもののことを同位体というのです。
例えば、普通の水素の原子核は陽子1個だけで出来ていますが、水素には原子核が陽子1個と中性子1個から出来ている重い同位体が存在します。これを文字通り「重水素」といいます。重水素の原子核も普通の水素の原子核と同じようにふるまい、電子1個と結合して中性の重水素原子になります。同位体の化学的な性質は全くといって良いほど同じです。でも、その重さは普通の水素(軽水素)の約2倍もあるので、微妙に微妙に性質に違いが出ることもあります。例えば、水の沸点は100℃ですが、重水素2個と酸素で出来ている「重水」の沸点は、101.4℃です。しかし、やっぱりその違いはほんのわずかなので、簡単に分けることは出来ません。地球上には軽水素99.985%のほか、重水素が0.015%含まれています。重水素は安定な同位体なので、皆さんも毎日、ほんの少しですが重水素を含んだ水を飲んでいることになりますね
余談ですが、動物に重水を投与し、体液の40%ほどが重水になると死に至るそうです。さすがにそんなに多量に取り込むと、いかに違いがわずかとはいえ体内で起きる化学反応に影響が出てしまうんでしょうね。重水は100 mL1万円くらいで買えますが、重水で殺人をするのには費用がかかりますのでオススメできません
重水についての雑学、詳しくはこちらを →
~身近な元素の話~
閑話休題。原発事故で話題になったセシウムは原子番号55です。天然にある同位体はセシウム133、すなわち質量数は133ですから中性子は78個ということになります。セシウム133は安定同位体ですから、放射能がありません。これに対し、放射性のセシウム134の原子核は55個の陽子と79個の中性子で出来ています。安定同位体であるセシウム133との重さ(質量数)の違いは133/134で、ほとんどありません。質量数が2倍も違う軽水素と重水素でも物理化学的な性質の違いはほとんどなかったのですから、セシウム133と134の違いなんて微々たるものです。違いは放射性があるかどうか… そう、原子核中の陽子と中性子の数にもバランスがあって、バランスが悪い原子核は放射線を出して別の元素に変わるんです。中性子数78個と79個、たった1個の違いが放射能の原因なんです。そして、同じ元素でも安定な同位体と不安定な放射性同位体があることが放射性物質の除染の難しさの一因でもあります。もともと天然に多量にある安定な同位体の化合物やイオンから、ほとんど同じ性質を持つ極々微量の放射性同位体を含むものだけを取り出すのは、とても厄介なんです。
また、
放射能は原子核の中の現象なので、化学的な変化の影響を受けません。化学変化とは原子核のまわりを取り囲む電子の状態の変化なので、原子核の中に影響を与えることはありません。つまり、放射性物質を何かの薬品で化学的に処理しようとしても、植物や細菌での分解しようとしても、まったく
無駄だということです。
特に生物が関わる現象だと何か特殊で神秘的なことのように思われるかもしれませんが、複雑なだけで化学反応に変わりはないのです。
ときどき、放射性物質を「分解」する薬品とか植物とかが発見されたなどというニュースが流れますが、良くても放射性物質の吸着・濃縮であり、デマや悪質な詐欺の場合もあります。化学者の私が化学は無力だと言ってるんだから、無力なんですよ
騙されないように、ご注意を!